真空低温調理の知見
Anova Precision Cookerで(真空)低温調理をやるときのメモ。歴3ヶ月くらいです。
真空低温調理
恒温水槽に真空パックした食材を入れて長時間放置する調理法。「煮る」の亜種。低温のゆえんはタンパク質の分水作用温度が68℃であることにある*2。病原体が死ぬ程度には高く、タンパク質が固くなりすぎない程度の低温。
ふつうの調理では食材の中心から外側にかけての温度にムラがあるが、低温調理では食材全体が均一な温度で熱せられることになる。
調理温度と化学反応
『Cooking for Geeks 第2版――料理の科学と実践レシピ』を読むべし。
肉や魚に含まれるタンパク質の約55%をミオシンという成分が、約25%をアクチンという成分が占めていること、ミオシンはアクチンより低温で変性すること、ヒトの味覚はミオシンは変性しているがアクチンは変性していない状態の肉を美味に感じること――最低限覚えておくべき理屈はこれだけ。
より具体的には、以下の温度を意識する。
調理温度 | 化学反応 |
---|---|
4℃ | 食中毒の原因となるバクテリアや寄生虫が増殖を始める |
37.8℃ | サルモネラ菌が盛んに増殖する |
40℃ | 魚に含まれるミオシンが変性を始める |
50℃ | 肉に含まれるミオシンが変性を始める 5分でカンピロバクターが死ぬ |
55℃ | 食中毒原因菌が生存できる温度の上限 |
60℃ | 2分でサルモネラ菌が死ぬ 2時間9分でE型肝炎ウイルスが死ぬ |
61℃ | 卵が固まり始める 1時間20分でE型肝炎ウイルスが死ぬ |
63℃ | 厚生労働省による加熱食肉製品の加工基準、いわゆる「合法」ライン 30分でE型肝炎ウイルスが死ぬ |
65℃ | 3分でO157が死ぬ |
65.5℃ | 肉に含まれるアクチンが変性を始める |
68℃ | I型コラーゲンが変性する |
70℃ | 植物性デンプンが分解する 1分でO157が死ぬ |
154℃ | メイラード反応が顕著となる |
つまり、肉は55℃~65.5℃の範囲で調理すればよい。
基本的に、低温調理したのちに肉の表面を加熱すれば*3パスチャライゼーション、すなわち殺菌できるが、ブタに感染するE型肝炎ウイルスは、肉の表面だけでなく内部にもいる可能性があるため、表面温度ではなく中心温度60℃を2時間9分維持する必要がある。
食材ごとの特徴
感想。
牛
短時間でもいい感じ。58℃でやるくらいがミディアムレアでおいしい。
ローストビーフの場合、塩コショウを振り、スライスしたにんにく、ローズマリー、タイムなんかと一緒にオリーブオイルに漬け、58℃で4時間加熱、冷蔵庫に一晩置いてから*4、最後に表面を焼き上げればよいという結論に至った。これなんですけど。
煮汁は醤油とみりんを足して煮詰めてタレにするとよい。
部位としてはロースやモモが定番だが、タンもよかった。まあ全部おいしいよ。
豚
E型肝炎にはなりたくないので60℃スタート。
醤油、酒、みりん、生姜、にんにく、長ネギを煮てつゆをつくっておき、豚と一緒に61℃で半日放置しておけばチャーシューが爆誕する。
均等に加熱されるのでタコ糸を巻く必要はない。
コラーゲンが多い肉は時間をかければかけただけよくなる。
羊
獣臭いのでハーブが要る。前述のローストビーフの手順に沿ったものがかなりよかった。ただし写真はない。
鳥
仕上がりはサラダチキンっぽい感じ。
ローストビーフのタレに加えて、粗挽き胡椒とレモン汁を投入しておくとさっぱりしておいしい。
温度と時間はどれくらいが適切なんですかね。まあどの肉も60℃5時間やれば肉を口に入れた人間が笑い出す程度にはおいしくなる。
卵
63℃1時間で温泉卵。
ジップロックに入れる必要はない。が、いくらサルモネラ菌が死に絶えるといっても、そのまま水槽に入れるのには抵抗がある*5。ので、やはりジップロックに詰めたほうがよいのではないかと思う。このとき、水やつゆ*6を封入しておかないと割れやすくなる。
魚
54℃1時間半。51℃以下になるとちょっと生っぽい。
短時間だと唐辛子を入れてもそう辛くならない。
なお、55℃以上長時間でなければ魚のパスチャライゼーションは達成できないが、調理して2時間以内は生食と同じコンディションとされる。すぐ食えば大丈夫。
フルーツと野菜
あまりよくわからない。
リンゴをサイダーに漬け、レモンの皮、レモン汁、クローブ、バニラエッセンスを投入して70℃で1時間煮たものはおいしかった。煮汁は煮詰めてキャラメルに。
しかし肉ほど感動的ではないのだよな。
おわりに
よくわからん温度と時間ですがいちおう食中毒を警戒しつつ気持ちでやっていく感じ。
今年は低温調理のほか、醸造、燻製、生ハム原木などに対する気持ちがあります。
はい。